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最高裁判所第三小法廷 昭和35年(オ)114号 判決 1962年2月27日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人津島宗康の上告理由第一、二点について。

論旨は、原判決には経験法則、論理法則ないし法律の解釈を誤つた違法がある、というにある。しかし、原判決は、当事者間に争のない事実および挙示の証拠により、昭和三一年一一月二七日当時原判示小学校の二年生であつた被上告人の五女藤田要子が同小学校の校舎で学友らと「鬼ごつこ」をして遊戯中、当時同小学校の一年生であつた上告人西原幸子が附近に立つていたので、要子が学友から追つかけられていた際であり、逃げるために幸子に「背負うて」と頼むと、幸子はこれを承諾して背を向けたので、要子は急いで幸子の背に負われると同時に「走つてんか」といつて幸子に走るよう促したところ、幸子は走ろうとしてその場に要子を背負うたまま転倒し、そのため幸子が原判示傷害を負うた旨、の事実を認定し、よつて、幸子自身も「鬼ごつこ」遊戯に加つたものとして、要子の右行為は客観的にみて条理上是認しうべきものであつて違法性を欠く旨、判定していることは原判文上明白である。そして、原判決挙示の証拠関係に徴すると、上告人西原幸子の原判示負傷は加害者とされる要子ら児童の「鬼ごつこ」なる遊戯行為中幸子がそれに関与した上で発生したものと認められるから、所論「幸子自身もその時右の遊戯に加つたものとみなければならない」との原判決の判定は、結局において、所論のように経験則、社会通念ないし条理に反するものとは認め難い。さらにまた、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を具えない児童が「鬼ごつこ」なる一般に容認される遊戯中前示の事情の下に他人に加えた傷害行為は、特段の事情の認められない限り、該行為の違法性を阻却すべき事由あるものと解するのが相当であるから、藤田要子の原判示行為は客観的にみて条理上是認しうべきものであつて、違法性を欠く旨の原判決の判定は正当である。従つて、上告人ら主張の本件不法行為は、その客観的成立要件である違法性を欠くから、成立しないとして、上告人らの本件請求を排斥した原判決の判断は正当であり、原判決には所論のように民法七〇九条、同七一二条、同七一四条等の解釈を誤つた違法はない。所論は、ひつきよう、原判決を正解せずして原判決の認定に副わない事項に立脚するかないしは独自の見解に基いて、原判決を論難するもので、採用できない。論旨はすべて理由がない。

同第三点について。

論旨は、原判決には民法一条、同条の二の法意に違背した違法がある、というにある。しかし、原判決の判断の正当であることは、第一、二点について説示したとおりであるから、原判決には所論の違法を認めえない。論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐)

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